第3話

「時空変動値安定値に戻りました。」

ディスプレイには第8課がターゲットを捕まえたのが映っている。その瞬間に変動値が安定したのだ。
ピ・・・ピ・・・ピ・・・

「ふぅ・・一体うめこぶちゃんは何をしようとしてたんだ?時空変動値の変異の原因は何なのだろうな?」

ピ・・・ピ・・・ピ・・・

「時間の流れに矛盾が生じた時に変異する、と言われてるけど。」

ピ・・・ピ・・・ピ・・・

「それもSFの受け売りだろ?タイムパラドックスの予兆だと。」

ピ・・・ピ・・・ピ・・・
部屋の中は定期的に機械音が鳴る。この音が何の音なのか、時空管理装置に付いている黒い画面に映る緑のギザギザの線が何を表しているのかこの部屋にいる者は知らない。ただ、これに似たものをどこかで見たことがある気がするのだが・・。

「・・さん・・」

「おか・・・さ・・・」

どこからともなく少女の声が聞こえてくる。
ピ・・ピ・・ピ・・ピ・ピ・ピ・

「おい、こわいじゃないか、なに怖い声出してんだよ。」
「わ・・私じゃないですよ」

「おかあ・・さ・・」

ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・
それは時空管理装置が生成している時間の裂け目から聞こえてきた。

「おい、これって・・・」
「こんなこと・・」

ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・

「おかあさぁーん!」

ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・
ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・
ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・
ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・ピ・

「うめ・・こぶちゃん・・」

室内に聞いたことの無い声が響いた。そして時空管理装置が勝手に動き出した。

「おい、制御が効かない!」


ところ変わって、浅漬け中学裏庭。手入れがされていない草を宙に舞い上がらせながら、時間航行装置がうめこぶちゃんの目の前に降り立った。これで未来の世界に連れて行かれるのだろう。

「お母さん・・。」
「うめ・・こぶ・・ちゃ・・」
「!」

声が聞こえたかと思うと轟音を響かせながらまるで雷のように空を裂いてお茶漬けちゃんのすぐ傍に光が落ちてきた。そしてそれは球の形をして宙に浮かんだ。うめこぶちゃんにとってそれはよく知っている物だった。

「時の・・柱・・」

そして、もう一人、時空警察でも小梅ちゃんだけがその意味を知っていた。

「彼女が・・目覚めた?何故?」

小梅ちゃんは信じられず、目を疑った。他の者は目の前の超常現象に皆、平静ではいられなかった。ただ一人、冷静でいられたうめこぶちゃんは時空警察全員の一瞬の隙を見逃さなかった。傍の者を蹴りつけて逃げ出し、光の球に向かって一直線に走り出した。

「うめこぶちゃん、逃がしません!」

一瞬遅れて気づいた小梅ちゃんは周囲に小梅バリアーを張ってうめこぶちゃんを猛スピードで追いかける。するとうめこぶちゃんはクルリと反転して手錠をした腕で小梅バリアを強く殴りつけた。ビシビシっと電気を放つと手錠はボンっと音を立てて破壊された。

「しまっ・・」

小梅バリアが一部壊れたと共にバランスを崩して小梅ちゃんは宙に吹き飛ばされる。手錠の電磁バリアが小梅バリアを相殺したらしい。

うめこぶちゃんも反動で投げ出されたがこちらは上手く着地。もともと運動神経がいいというか、勘がいいのだ。そして、お茶漬けちゃんに近寄っていった。

「お茶漬けちゃん。昔、約束したろ?私が勝負に勝ったら、一つだけ願いを聞いてくれるって。」

未だにお茶漬けの素スーツでコケて起き上がれないお茶漬けちゃんに話かけるが、お茶漬けちゃんは不思議顔。少しムズカシそうな顔をするも・・。

「・・覚えてない」
「これだ・・私はこれに掛けてたのにさ」
「でもいいよ。負けたから一つお願いを聞いてあげる。」

まるで罰ゲームは何ですか?と言う雰囲気で気軽に答えるお茶漬けちゃんに拍子抜けするうめこぶちゃんだが、これもお茶漬けちゃん相手ならいつもの事だ。気を取り直して言う。

「私と未来の世界について来てくれ!!」

流石のお茶漬けちゃんも、「何言ってるんだろう、この人は頭がおかしくなったのだろうか」と思ったが目が真剣だったので、断る事はできないと思った。

「うん、いいよ。」

一瞬うめこぶちゃんは輝いた顔をしたが、すぐ気を取り直して顔を引き締める。お茶漬けちゃんを起こしてあげると、光の球に向かって歩き出した。そして右手を前に突き出すと手の前に楔型文字を描いて光が浮かび上がる。うめこぶちゃんの目の瞳孔が蛇の瞳孔のように縦に長くなると、謎の言葉を言った。

―*‘{*‘><{〜(開け、時の柱よ・・・)―

光の球は落ちてきた時と逆に地から光を伸ばして空を引き裂いた。

「さぁ・・行こう。」
「うん」

二人が光の柱に入って行こうとする。その時、小梅ちゃんは小梅バリアを展開して時の柱の前に滑り込み行く手をさえぎった。


「駄目です!その中は生身では・・・えっ・・?」


強い引力で小梅ちゃんは時の柱に引き寄せられていった。小梅ちゃんは光の柱に近づきすぎたのだ。

「そん・・な・・きゃあぁぁぁぁ!」

時の柱の光が小梅バリアさえ通り越して小梅ちゃんを焼いた。小梅バリアが解けたら、その一瞬で小梅ちゃんは蒸発するだろう。

「いけない!」

うめこぶちゃんは蛇のような瞳孔で目を見開くと、背中から角の様な物が飛び出し、体が輝きだした。そのまま時の柱に入り込み、小梅ちゃんに手を当てると小梅ちゃんの体も光りだす。この光は時の柱の光を防ぐ力があるらしい。時の柱の中でも自由に動ける。

「うめこぶちゃん・・・あなたは一体・・」
「そんな事はどうでもいい、お茶漬けちゃん、早く!」
「え・・」
「時間が無いから早くこの手を・・」
「・・うん!」

お茶漬けちゃんは走った。力の限りに!

「あ、お茶漬けちゃん、そのスーツで走ると・・・」
「ちゃ、ちゃちゃぁぁーーー!」

そして転んだ。

「・・・」

うめこぶちゃんは目が点になった。

「ちょ・・時間が・・いや、本当に時間が無いんだって!」
「うめ・・・こぶちゃ・・」

必死に腕を伸ばすが全然届かない。その前に時の柱の光が強くなってもう、時の柱は何かをヤル気満々である。

「おちゃ・・」

うめこぶちゃんが名前を呼びかけようとした時だった。時の柱はうめこぶちゃんと小梅ちゃんを連れて強い光を放って空へと吸い込まれるように昇り、消えた。

「もう、あんたとはやってられまへんわー!」

といううめこぶちゃんの漫才師のような台詞のみを残して。